日本人が住まいに愛着を
持てるようになるコツ

脳科学者・医学博士・認知科学者
中野 信子さん

住宅情報管理サービス「うちレコ」の開設に合わせ、インタビュー企画第1回では、TVなど複数のメディアで引っ張りだことなっている気鋭の脳科学者・中野信子さんにご登場頂きました。
(聞き手は大西 倫加=日本ホームインスペクターズ協会理事、株式会社さくら事務所代表取締役社長)

昭和名建築を買ったものの…修繕履歴が見当たらない


中銀カプセルタワーの外観

本日はよろしくお願いいたします。
私たちが開始したサービス「うちレコ」は、生活者の方に使って頂く、住宅に関するデータベースシステムなんですが、今日は、脳科学者としての視点から、どうすれば私たちは住まいというものに愛情を感じられるのか、教えて頂ければと思って参りました。

こちらこそ、よろしくお願いいたします。
実はおうちに関連するサービスということでしたので、私もぜひお話ししたいことがあって。楽しみにして参りました。

とても親しい友人が、中古マンションを買ったんです。
ただ、中古住宅を私たちが買うときって、以前にどんなオーナーさんがいたかは教えてもらえるけれど、誰が、何を、どう変えたか、詳しく教えてもらえない、わかんないですよね。
もう4人くらいオーナーが変わっている物件で。 築43年なんですけれど。

その築年数でその人数となると、割と転売価値が高い住宅みたいですね。

「中銀カプセルタワー」(以下、中銀(なかぎん))っていうんですけれど、ご存じですか?

すごい!建築家の故・黒川紀章さんが手がけた名建築(写真)じゃないですか。
身近な方がカプセル(区分所有権)を買われたんですね。

そうなんです。
ただ、買ったはいいけれど、もういろいろあって。
例えばカビが繁殖している部分があって。カビカビになってるボードや壁紙は破って撤去して、友人が自分で直していて。

聞くところによると、あの建物はお風呂が使えないとか……。

そう、使えないです。お湯が出ないので。

部屋によって劣化度合いも違うそうですね。

友人のカプセルの場合、なにせ、湿気がすごいんです。前の、あるいはその前のオーナーさんかしら……室外機と一体になっているウインドウ・エアコンを取り付けていたんですけど、それは外して換気窓にして、換気扇も新しくしようとしていて。
いったん手を入れ始めると、あとはこれ、次はこれ……と、止まらなくなると言ってました。

おそらく水道も。かつて一回おかしくなったんだろうと思うんですけど、ドアの片隅を切り欠いてそこにパイプを通してる。当時、修理した人、たぶんオーナーさんがご自分で切ったんでしょうけれど、切った部分がギザギザなんですよ。どう見てもプロがやったとは思えない。

こういうの、いつ誰が、どんな工事をしたんだろうか……、やっぱり知りたいなと思い始めていたところで、今回のお話を頂いて。
中銀の部屋を売るということはしばらくないと思うんですが、もしも次に売るのなら、友人がどこをどう直したか、履歴として残るといいなと。古い住宅をもう少し大事にできて、便利に使えるシステム。

データベースが残って、いつの段階ではこうなっていたとわかれば、次の人がやりやすい。そんな「あったらいいな」が、今回ご紹介いただいた「うちレコ」なんじゃないかと。

住宅が新築段階ではこうだった、その後、1回めのリフォームでこうなった、2回めでこうなった……。そうした遍歴を私たちは「住宅履歴情報」と呼んでいるんですが、日本では過去に建った住宅は図面すら残ってないことも多くて、情報が少ないんです。それで訳がわからない建物だから買い叩かれる、壊される、ということが続いているんですね。もったいないなと。
自分の住まいの記録をいろいろと楽しく残す仕組みがあれば、歯止めをかけるきっかけになるのでは、というのが「うちレコ」のコンセプトなんです。

それ、実感としてわかります。私はフランスに住んでいた時代が3年ほどあったものですから、日本ではたった築50年で「古い」と言われてしまうのが、とても異様な様子に見えます。200年、300年経ってようやく価値がある建物だとされる、そんな価値観が日本にないのはとても残念だと思いますね。

日本人は全体で見ると新築が好きみたいですけれど、私はあまり新築が好きでなくて。「建ったばかりの新しい建物」という価値は、使い始めればすぐ目減りしていきますよね。すぐに目減りする価値にお金を払うのはあまり賢いとは思えないですよ。
一見、古びて無駄だけれども、歴史的価値を持つとか、心理的価値を持つとか。古美術品に通じる価値観も大切にしたいですね。

私や友人にとって、中銀は「住めるアート」。世界のどの都市にもない、東京というまちのにおいがする建物なんです。気分の上では「住宅購入」というより、「アートへの投資」に近い感覚かも知れません。

中野信子

中野 信子【なかの・のぶこ】

1975年生まれ。脳科学者・医学博士・認知科学者。
東京大学工学部応用科学卒業、東京大学大学院医学系研究科脳神経専攻博士課程修了。
2008年から2010年までフランス国立研究所で研究員として勤務。
2013年から東日本国際大学客員教授、横浜市立大学客員准教授、2015年4月から東日本国際大学教授。
脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行っている。
科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。
NHK「英雄たちの選択」、フジテレビ系「ほんまでっか!?TV」などTVレギュラー出演多数。
近著に「あなたの脳のしつけ方」(青春出版社刊)。

インタビュー一覧

中野信子

日本人が住まいに愛着を持てるようになるコツ」

Vol.1
脳科学者/医学博士/認知科学者
中野信子さん

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住まいのインテリアも SNSみたいに気軽な情報交換を

Vol.2
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犬山紙子さん

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Vol.3
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